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Premium Marché 特選素材 4月は「ごちそう春野菜」

野菜

“春の訪れ”を五感で楽しむことができる国、日本。あちこちで一斉に咲きだす桜や厳しい冬を乗り越え芽吹いた新緑の色、沈丁花の香りや鳥のさえずりは、私たちに春の訪れを教えてくれます。さらには、春しか食べられない旬の野菜に触れ・食べることで、豊かな四季の移ろいを全身で感じることができます。

4月のプレミアムマルシェは、日本各地の「ごちそう春野菜」をご紹介。今月は、京都府長岡京市で京たけのこを栽培する石田ファームと、鹿児島県指宿市で空豆を栽培するアグリスタイルを訪ねました。

一年かけて手入れされた美しい竹林で“京たけのこ”を栽培する「石田ファーム」

まるでリンゴのような食感、トウモロコシのような甘みを持つ京たけのこ

今から1200年以上も前、平安京から平城京へと遷都する間の約10年に「長岡京」という幻の都が存在したとされる京都府長岡京市。たけのこの品種であるモウソウチク(孟宗竹)が初めて中国から日本へ伝わった、京たけのこ発祥の地でもあります。石田ファームは祖父の代から50年以上、この由緒ある場所で京都西山地域の伝統的な「軟化栽培法」による京たけのこの栽培を行っています。

春の訪れを知らせる、白くて柔らかな京たけのこ

「たけのこ堀り」について、みなさんは裏山の竹林で顔を出した穂先を掘り起こして収穫する“山菜採り”のようなイメージをお持ちではありませんか?ですが、今回プレミアムマルシェが訪れた石田ファームをはじめとする京都西山地域では、たけのこを昔から伝わる「軟化栽培法」で手間ひまかけて育てています。つまり京たけのこは、丁寧に手入れされた“たけのこ畑で栽培している野菜”。色の白さと柔らかさ、エグミの少なさ、豊かな香りと風味は定評があり、高級料亭や有名ホテルなどでも「古都が育てる春の味覚」として人気です。

敷き草や土入れを施し、フカフカに手入れされた「たけのこ畑」

京たけのこのおいしさの理由を知るために、「軟化栽培法」についてご紹介します。まずは、まるで畑のように竹林(京都では藪・やぶと呼びます)の手入れを行う、たけのこ農家の一年について。4月は収穫をしながら、親竹として残すたけのこの選定を行います。選ぶポイントは“竹の太さと場所”。6~7年親竹として活躍し、役目を終える竹の近くに生えた太いたけのこへ目印をつけて収穫しないようにし、成長した竹には西暦を直接書いて管理をします(2012年に残した親竹には12とナンバリング)。

次に、掘った後の穴に「お礼肥(おれいごえ)」と呼ばれる肥料を入れます。石田ファームの代表石田昌司さんが選んだのは、京都の豆腐屋から仕入れる“おから”と、京都のごま油職人から取り寄せるごまの搾りかす。これらを発酵させることでタンパク質が分解され、旨み成分の元となるアミノ酸となり、京たけのこの味をぐっと良くしてくれるのです。

夏には残した親竹の手入れや、「サバエ」と呼ばれる細い竹などを取り除く作業を行います。秋には役目を終えた親竹を切り落とし、稲刈り後の藁(わら)を藪に敷き詰めます。冬になると、保水力のある京都西山地域の赤土粘土をダンプカー20台以上でファームの近くまで運び、1か月以上の時間をかけて一輪車で土を運びながら藁の上へ丁寧に被せていきます。「秋にはたけのこの芽が出始めるので、重機は使えません。地下茎を傷つけないよう、時間をかけて手作業で行う必要があるんですよ」と話す石田さん。

※写真は、地面に現れた地下茎。節の近くにポツンと芽が出ています。

これら一連の手入れを怠ってしまうと、土がカチカチになって掘りづらく、白くて柔らかい京たけのこが育ちにくくなってしまいます。さらに、藪を元の状態に戻すには5年もかかってしまうのだとか。藁・土・藁・土…の層を毎年重ね続けることで、人が足を入れても踏み固まらない、フカフカに手入れされた「たけのこ畑」が受け継がれているのです。

京都西山地域独特の農具「ホリ」を使って収穫

「軟化栽培法」のもうひとつの特徴が、「ホリ」と呼ばれる西山地域独特のL字型農具を使った収穫作業。柔らかな土へつき刺し、手元に伝わる地下茎の感触を頼りながら繋がっている部分を切り離し、てこの原理でたけのこを掘り起こします。平均すると1日80キロほど、1シーズンで1トンほどの収穫を行うため、フカフカの土は扱いやすく狭い穴で掘り起こせるため、作業時間の短縮にも繋がります。

石田ファーム 京たけのこの動画

「地下茎を切るときは体力が要りますが、掘る力はさほど必要ではないですよ」と、私たちと会話しながらも次々とたけのこを掘り起こしていく石田さん。

味を分かっている人は「大きいサイズ」を選ぶ

祖父の代から続くたけのこ農家に生まれた石田さんは、電機メーカーの設計職や自動車メーカーのエンジニアを経て、2010年から家業を継いだのだそう。農薬・化学肥料・除草剤・土壌消毒剤を使わない、安心・安全でおいしい京たけのこ栽培のほか、たけのこの新たな保存方法や竹パウダーをはじめとする竹の有効活用法の開発にも取り組まれています。

石田さんにおいしいたけのこの選び方について尋ねたところ、「やはり鮮度が命ですね。そして、大きいたけのこの方が柔らかくておいしいと思います。それは、地中のより深い所で育ち、空気に触れていないから。空気に触れるとエグミがでてしまいます。大きいたけのこには硬いイメージがあるかもしれませんが、味をわかっている人は大きいサイズを選ばれますね。

また、たけのこは地中にあるうちは黄色、地表へ出ると緑に変わりますが、味はさほどかわりません。石田ファームでは肥料として発酵したおからやごまの搾りかすを与えていますが、アミノ酸由来の旨み成分のおかげで味は変わります。ただ、下茹で後に水へ漬けているとどんどん旨み成分が抜けてしまうので、早く食べるのがおすすめです」とのこと。

<石田さん直伝>たけのこの下茹で方法

時間が経つほどエグミがでてしまうため、持ち帰ったらすぐに下茹でしてください。
①火の通りが早くなるよう、穂先を切り落とし側面に切り込みを入れます。

②水を張った鍋へたけのこを皮のまま入れて、水から茹でます。たけのこを少し齧ってみてエグミを感じたら糠(ぬか)をひとつまみ、とてもエグイと感じたら多めに糠をいれ、たけのこが浮かばないよう重めの落し蓋を(唐辛子は無くてもOKです)。65~80度までそっと温度をあげ、沸騰しないように気をつけながら30分ほど茹でてください。たけのこの太い部分へ皮の上から竹串を刺し、スッと入ったら火を止め、そのまま自然に冷まします。この時、冷水で急速に冷やさないように。

※皮のまま湯がくことで、急に沸騰してもタンパク質が壊れる80度以上になるのを防ぎ、旨みを逃しません。また、皮の成分が繊維を柔らかくしてくれる効果もあります。

③手で触れられるほどまで冷めたら、中央の切り込みから皮をむきます。皮の根元が気になる場合は、竹べらなどで軽くこそぎ落としてください。保存する時は、縦半分に切って水を入れた保存容器にたけのこ全体を浸し、冷蔵庫へ。毎日水を交換することで5日ほど日持ちしますが、水を交換するごとに旨みが抜けるため、早めにお召し上がりください。

※たけのこを縦に切ることで、節の間の水が傷むのを防ぎます。

<石田さんおすすめ>京たけのこのおいしい召し上がり方

穂先や上の部分は、茹でたてをわさび醤油で食べる「たけのこのお刺身」で。根元は、厚めの輪切りにしてオリーブオイルやバターで少し色が付くまで焼き、岩塩やハーブ塩などでシンプルに味付けした「たけのこステーキ」でお楽しみください。

『京たけのこの炊き込みごはん』

材料(約4人分)

・下茹でした京たけのこ … 150g
・米 … 3カップ
・油揚げ … 30g
・昆布・鰹節だし … 480cc
★薄口醤油  … 35㏄
★酒 … 15㏄
★みりん … 15㏄
★塩 … 少々

作り方

1 (下準備)だしをとって冷まし、油揚げは熱湯をかけて油抜きし、切っておきます。

2 米は炊く1時間前に洗ってザルにあげ、茹で筍は食べやすい大きさの薄切りにします。

3 昆布・鰹節だしに★を加え1のお米と釜に入れ30分おきます。

4 筍と油揚げを炊飯器に入れ、指定の時間で炊きます。

レシピ提供:KYOTO VEGELABO

指宿の太陽をたっぷり浴び、驚くほど甘く育った「アグリスタイル」の空豆

空に向かって育つ!「かごしまブランド」に認められた指宿産空豆

空に向かってぐんぐん成長する「空豆」。サヤの形や内側のワタが蚕の繭に似ていることから「蚕豆(かいこまめ・そらまめ)」とも呼ばれています。空豆生産量日本一を誇る九州最南端の鹿児島県指宿(いぶすき)市は一年を通して暖かく、霧島火山脈の影響で山肌から煙が沸き上がるほどの温泉や地熱に恵まれていることから、“日本のハワイ”とも称されるほど。一年を通して温暖な地の利を生かすことで、指宿の野菜農家「AGRI STYLE(アグリスタイル)」では約6ヵ月もの間、甘くておいしい空豆を露地栽培し続けることができるのです。

日本一の生産量を誇る指宿の空豆

近年、さまざまな野菜がハウス栽培などを利用して周年出荷されていますが、空豆はほとんどが露地で栽培されるため、春の到来をしっかりと感じることのできる野菜です。一般的な空豆の旬は4~6月ですが、なんと指宿では11月下旬から5月初旬までの約6か月もの間、収穫が可能。空豆は冬を越すことで実を結ぶことから、アグリスタイルでは9月に種を植え付け、芽が出たら約2℃の冷蔵室に入れ、空豆の苗に冬を疑似体験させる処理を行うのだそう。その後、冷蔵室から出た苗は温暖な指宿の気候を「春が来た!」と勘違いし、冬でもスクスクと成長してくれるのです。他の地域と比べて遥かに長い期間収穫できることもあって、指宿市の空豆生産量は日本一に。県の特産品として「かごしまブランド」にも認められているのです。

指宿の地の利が空豆を驚くほど甘くする

「指宿は一年を通して暖かく、砂蒸し風呂ができるほどの地熱の影響もあり、冬でも霜が降りません。一般的に冬の畑は茶色くなっていることが多いのですが、この辺りでは空豆をはじめとするあらゆる作物が青々と茂っている、日本でもかなり珍しい地域なんです」と話すのは、株式会社アグリスタイル代表の湯ノ口貴之さん。

「うちの空豆はとても甘いのですが、特に肥料を工夫している訳ではありません。年中温暖な気候、太陽や風、地熱など、指宿という土地柄が空豆を自然と甘くしてくれているんです。これは、他の土地では真似ができないと思っています」。

太陽を目指してぐんぐん成長する空豆たち

空に向かって成長する空豆は、豆が育ってサヤがふくらみ、その重みで下がってきた時が収穫のサイン。実際にサヤを触るとしっかりした弾力があり、違いは明らかです。また、空豆畑を眺めてみると、太陽のしっかり当たる南側にサヤが集中していることが分かります。

空豆はシーズンの早い段階で収穫するとしっとりとした瑞々しい食感に、4月を過ぎたころからは、サヤから栄養がしっかり補給されたほくほくの食感が楽しめます(湯ノ口さんはしっとり派だそうです)。アグリスタイルの空豆は、薄皮もおいしく食べることが可能。また、鮮度が命とされる空豆は、収穫してすぐのサヤを開くとお歯黒(サヤから栄養を吸収するための筋の部分で、へその緒のような役割)の色が薄くなっています。

※ちなみに、サヤの中にいくつ豆が入っているかで“味の違い”はないのだそう。

生産者は“ピエロ”となって野菜のよさをアピールする

「僕ら生産者は、“ピエロ”のような存在だと思っているんです」と話す湯ノ口さん。

「というのも、僕たちは空豆やスナップエンドウ、オクラをはじめとする指宿産の野菜を、消費者のみなさんにもっと食べてもらいたい。そのためにも、生産者がしっかりと前にでて、野菜のおいしさをアピールすべきなんです。例えば、出荷する野菜にアグリスタイルの想いやレシピを添えて届けることで、生産者の顔がしっかり見え、もっと応援してもらえるかもしれない。子どもたちへ食育体験のイベントを行って野菜のおいしさを伝えることで、ご家族が指宿産の野菜によいイメージを持ち、価値を感じて買ってもらえるかもしれない」。

「従来のように、ただ収量を増やして多くの市場に置いてもらい買われるのを待つだけではなく、これからは、生産者と消費者がもっと身近な存在となるのが理想。僕たちはおいしさを伝道するピエロとして、一人でも多くの方に指宿産の野菜を食べてもらえるよう、さまざまなアプローチを試していければと思います」。

※写真は空豆の花。スイートピーのような美しさです。

<湯ノ口さん直伝>空豆の保存方法

①サヤをむいて実を取り出したら、すぐに食べましょう。数時間置いただけで色が変わり、味もかなり違ってきます。「食べる分だけサヤをむく」のがポイントです。

②サヤ付きのままでも、鮮度はみるみる落ちてしまいます。すぐ食べないと分かっている場合は、全てサヤをむいて沸騰したお湯で1分ほど下茹でし、そのままざるに取って(洗わない)粗熱が取れてから「冷凍庫」で保存すると、数か月保存が可能です。

<湯ノ口さんおすすめ>空豆の旨みがギュっと凝縮する調理法

サヤごとビニール袋に入れ、電子レンジで1分30秒ほど加熱。サヤの中の水分で豆が蒸され、旨みがギュっと凝縮されたホクホク空豆が出来上がります。

※サヤが弾けるので、必ず袋にいれてください。

『空豆の天ぷら』

材料

・そら豆 … 適量(食べる分だけサヤをむく)
・揚げ油 … 適量
★溶き卵 … 半個分
★小麦粉 … 30g
★水 … 20~25cc
★塩 … 適量

作り方

1 ボールに★を入れて混ぜ合わせ、衣を作ります。

2 (1)に空豆を入れ、軽く混ぜます。

3 180℃の油に空豆を1個ずつ入れ、ほんのりきつね色になるまで揚げれば出来上がり。

※レシピ提供:アグリスタイル

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