食育とは食に関する正しい知識を持ち、バランスの良い食生活を実践できる力を身につけること。子ども向けの食に関する教育といったイメージがありますが、私たち大人も食について理解を深め、生活に取り入れ、心身の健康を育むことが大切です。
今回はセレッソ大阪堺レディース所属のアカデミー選手へ食事指導を行っている、日本ハム株式会社中央研究所所属の管理栄養士・川岸さんと櫻井さんへ、バランスのとれた食生活のヒントや、女子サッカー選手へ行っている栄養指導などについてお話を聞きました。
(左)川岸奈央さん (右)櫻井郁美さん
共に日本ハム株式会社中央研究所に所属する管理栄養士。セレッソ大阪堺レディース所属のアカデミー生や保護者へ食事指導を行い、若い女子サッカー選手の身体づくりを手厚くサポートしている。
バランスのとれた食生活を実践するには?
― そもそも、「バランスのよい食事」とはどのようなものですか?
川岸さん:バランスのよい食事とは、必要な栄養素を過不足なくとることを指します。食事は、量と質の両方から考えることが大切ですが、1日3回の食事において「①エネルギーのもと」「②体をつくるもと」「③体の調子を整えるもと」を組み合わせて食べることで摂取できる栄養素の種類が増え、栄養バランスが整いやすくなります。
3つの働きの食べ物
①エネルギーのもと:考える、体を動かす供給源となります。
【食品例】ごはん、パン、麺、いも
②体をつくるもと:筋肉や皮フなど体の主成分として重要な供給源となり、酵素やホルモンの材料にもなります。
【食品例】肉、魚、卵、大豆製品、牛乳やチーズなどの乳製品、海藻
③体の調子を整えるもと:ストレスや疲れに負けない、日々元気に過ごすために大切なビタミン、ミネラルの補給源となります。
【食品例】野菜、きのこ、果物、海藻、いも
― 仕事が忙しいと「おにぎりだけ」「カップ麺だけ」などと食事内容が偏ってしまいます。
川岸さん:20~40代のいわゆるビジネスパーソンは体力も仕事も充実し、活発な年代です。しかし、忙しさのあまり食習慣が乱れる傾向も見られ、ストレスや疲れが増加しがちでもあります。そのため日々の食事は、ライフスタイルや活動量に見合った食事量(エネルギー量)で、バランス(質)が偏らないように心がけていただきたいですね。
必要な食事量は年齢、性別、身体活動量によって異なります。日によって、変動もあります。自分の食事量が適切であるかは、体重・体脂肪量を測り、目安量を参考に確認することも大切です。気になる方は、会社や地域の健康診断などで食事指導をうけてみるのもよいでしょう。
参考:日本人の食事摂取基準2020年版 エネルギー量について 02_各論_1-1_エネルギー
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586556.pdf
― 朝食や昼食がおろそかになった際、夕食をしっかり食べると栄養を補うことはできますか?
櫻井さん:夕食に重きを置きすぎなければ大丈夫だと思います。しかし、遅い時間にたくさん食べると体脂肪に変わりやすくなってしまうので、できれば寝る2時間前には食べ終わっていただきたいですね。空腹時間が長すぎると血糖値が急激に上がるので、3食の食事をなるべく抜かず、可能な限り1日の食事時間を12時間以内に収められるようにリズムを作ることを試してみてください。朝食を8時に食べた場合、夕食を20時までに食べ終われるのが理想です。
― 食生活を変え運動も始めた方が、自らの身体の変化を確認するには何をチェックしたらよいですか?
櫻井さん:まずは体重と体脂肪率を記録することが重要です。食を意識し、運動を始め、体重が変わらないのに体脂肪が減ってきていたら、筋肉量が増えたという予測ができます。日本人アスリートを対象とした研究では3か月で筋肉量が増えたというデータがありますので期間の参考にしてみてください。
参考:競技者の増量に適した食事方法の検討
掲載誌 日本臨床スポーツ医学会誌 / 日本臨床スポーツ医学会編集委員会 編 21(2):2013 p.422-430
ビジネスパーソンが積極的に摂りたい栄養素
― 次に、働き盛りの世代に不足しがちな栄養素を教えてください。
川岸さん:20~49歳では男女ともに食物繊維、ビタミンA、D、B₁、B₂、B₆、ビタミンC、カルシウム、マグネシウム、亜鉛が不足しがちです。加えて、男性においてはカリウム、女性においては鉄が不足しているというデータがあります。
参考:令和元年 国民健康・栄養調査結果「栄養素等摂取量」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
日本人の食事摂取基準2020年版「推奨量(目安量)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
― なぜ、これらの栄養素が摂りづらいのでしょうか。
川岸さん:野菜はビタミンやミネラル、食物繊維の補給源です。まず野菜の摂取量が少ないことが、食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、カルシウム、マグネシウム、鉄等の不足に関連していると考えられます。
健康日本21で目標値として定められている野菜摂取量は「1日350ℊ」です。しかし国民健康・栄養調査(令和元年度)によると、日本人の野菜の摂取量は、「男性 288.3 g、女性 273.6ℊ」という結果に。男女ともに目標値より少ない野菜摂取量となっています。
生野菜なら両手いっぱいの量で350gとなり、忙しい方であれば毎日これだけの量の野菜を食べることは難しいかもしれません。例えば、一般的なお惣菜では1パック約100gの野菜が摂れることが多いので、調理が負担な場合は市販品を取り入れてもよいですね。野菜は加熱するとかさが減り量がとりやすくなります。
― 他、積極的に摂りたい栄養素はありますか?
川岸さん:働き盛りの世代に摂っていただきたい栄養素の一つがたんぱく質です。加齢とともに衰える筋肉を維持・増加するために必要な栄養素となります。
また国民健康栄養調査(令和元年度)によると、運動習慣のある方の割合は男性で33.4%、女性で25.1%。男性では40歳代、女性では30歳代で最も低く、それぞれ18.5%、9.4%となっています。デスクワーク中心の仕事であれば、運動不足の方もきっと多いでしょう。
人間の筋肉量は20歳代でピークを迎え、その後、年齢とともに減少していきます。加齢により筋肉が衰えていくことで、免疫力が低下し、肺炎や感染症、糖尿病などさまざまな病気のリスクが高まるだけでなく、QOL(Quality Of Life:生活の質)にも悪影響を及ぼします。フレイル※予防のためにも、適度な運動そしてたんぱく質の摂取を心がけてください。
※フレイル:加齢により心身が老い衰え、さまざまな生理的能力が低下することにより、健康障害が生じやすい状態のこと。
― たんぱく質はどれくらいの量を食べるのが理想なのでしょうか?
川岸さん:18歳以上の男性であれば、朝、昼、夕食でそれぞれ20gのたんぱく質を摂るのが理想です。そのためには、朝食に目玉焼、昼食に焼き魚、夕食に肉料理など、たんぱく質が多く含まれる肉・魚・卵・大豆製品を使ったおかずを、まんべんなく食べていただきたいです。
加えて気を付けたいのが、朝食と麺料理です。朝食の定番の卵料理や納豆は、ごはんに魚や肉料理を組み合わせた食事に比べると、たんぱく質の量が少なくなります。ラーメンやパスタなどの麺料理については、トッピングや具材、ソースに含まれるたんぱく質量に差があります。
メイン料理によっては、冷奴などの小鉢、かまぼこなどの魚加工品、ヨーグルトやチーズのような乳製品や牛乳、肉や魚が使われている副菜を、プラス1品組み合わせるとよいでしょう。
櫻井さん:たんぱく質だけで見ると、鶏むね肉は脂質が少なくたんぱく質も豊富で効率よく摂取できるのですが、肉や魚だけ摂るのではなく卵や大豆製品も組み合わせて、他の栄養素も一緒に摂っていただきたいですね。
参考:日本ハム株式会社:「たんぱく質と〇〇|なるほどたんぱく質|たん博」
https://www.nipponham.co.jp/tanpaku/know/and/
忙しい方でも気軽に取り入れられる食事法
― 管理栄養士のお2人は、ご自身がお忙しい時にどのような食事アイデアを取り入れているのか教えてください。
川岸さん:
・冷凍庫にさまざまな食材をストックしています。肉は1回分使用量で小分けにしておくと炒め物や煮物・汁物に使えるので便利です。塩サバなど干物は焼くだけで1品完成します。カット済みの野菜(きのこ、トマト、玉ねぎ、大根)は汁物や煮物に使います。
・火の通りにくい野菜には、シリコンスチーマーを使って予め加熱しておきます。
・耐熱容器に、ごはん+ミートソース+卵やウインナー+とろけるチーズを乗せて、電子レンジのオーブン機能で焼くとドリアの完成。チーズの上にパン粉をかけるとサクサク食感が楽しめます。
・帰宅時間が遅くなる日の前日に、冷蔵庫にある野菜で具沢山スープを作っておきます。1品でも準備ができていると、帰宅後の食事準備も気持ちがラクになります。
櫻井さん:
・煮物、酢の物、ピクルス、ごま和え、磯和えなどのお総菜を作り置きしています。煮物には旬の野菜を取り入れ、根菜やこんにゃくでボリュームUPしています。酢の物にはチーズやかまぼこを加えて、ボリューム&栄養価UPしています。
・野菜は下処理し、肉や魚は味噌や醤油などの調味料に漬け込んで、それぞれ冷凍保存し調理の時間や手間を省いています。
・高野豆腐や切り干し大根、昆布、わかめ、干ししいたけなどの乾物は長期保存が利き、カルシウムや鉄などの栄養価も高く、戻し汁が料理に使えて便利なので買い置きしています。
― コンビニやスーパーのお総菜コーナーでは、どういうメニューを選ぶのがよいでしょうか。
川岸さん:
「主食、主菜、副菜を揃える」を意識して選びましょう。組み合わせに悩む時間すら惜しい時は、主食・主菜・副菜がそろう幕の内弁当がベター。もしくは、主食、主菜、副菜のいずれかが組み合わさったメインメニュー(例:親子丼、かつ丼)を選び、副菜にサラダや和え物、あとは乳製品を加えてみては。
脂質が多い料理(例:揚げ物、あんかけ、ルーもの、チャーハン)が重ならないように料理を選ぶことは、体重・体脂肪の増加を防ぐことにつながります。
櫻井さん:
お総菜コーナーでは揚げ物に意識が向きがちなのですが、野菜の酢の物・煮物・お浸し・卯の花などもプラスしてください。カットキャベツやサラダ(ノンオイルドレッシング)を合わせてほしいです。野菜炒めは野菜と肉などが同時に摂れて便利なのですが、揚げ物と合わせるときは全体的な脂質量が多くなってしまうので要注意です。
健康管理やダイエット目的で一食をサラダ単品にしたいときは、鶏肉や豆腐などがトッピングされたメニューを選び、たんぱく質も一緒に摂るようにしましょう。そして汁物や麺類を選ぶときは、具材がたっぷり入ったメニューがおすすめです。
続いて、パフォーマンスに直結!セレッソ大阪堺レディースを支える管理栄養士さんに聞く「アスリートにおすすめの食事法」では、お2人がセレッソ大阪堺レディースやアカデミー選手へ行っている食事指導などについてご紹介します。