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Premium Marché 特選素材 3月は「お米」
日本の食卓に欠かせないお米。「ふっくら炊けたご飯があれば、おかずはいらない」なんて人も多いのではないでしょうか。毎日食べる“食事の基本”であるからこそ、おいしさはもちろん、安心・安全であることにこだわりたい食材のひとつです。
3月のプレミアムマルシェが訪ねたのは、滋賀県野洲市で無農薬・有機栽培をはじめとする米作りを行う中道農園。おいしいお米が育つために欠かせない温暖な気候、日本一の湖・琵琶湖の美しい水をたたえた自然豊かな地で米作りに取り組んでいます。
与えるのは自然の恵み。田んぼに寄り添った米作りを行う「中道農園」
200年続く農家がこだわり抜いて育てる、安全でおいしいお米
近頃はスーパーでも無農薬・有機栽培のお米が買えるようになりましたが、それはここ数年のお話。日本では農薬使用が当たり前だった1980年代後半から、中道農園は減農薬栽培を実践。無農薬栽培基準を定めた「有機JASマーク」誕生以前から無農薬栽培にも取り組み、2000年にはJAS有機認証を取得。2008年からは水と空気のみで育てる自然栽培にも取り組んでいます。
自分が農薬で身体を壊したからこそ、無農薬・有機栽培にこだわり続ける
中道農園の園長・中道唯幸さんが米の無農薬・有機栽培に目覚めたのは1982年ごろ。農薬の影響で高熱を出した父親の代わりに農薬散布を任された中道さんですが、自身も4~5年後に体調を崩してしまいます。そこで、まずは自分のために減農薬栽培をスタートさせました。
その後、研究機関や有機栽培をしている先進農家から情報収集し、1997年から無農薬栽培米を販売。長年にわたり採算が取れない状態が続きますが、2000年にはJAS有機認証を取得。アイガモ農法をはじめとする様々なチャレンジを繰り返しながら「自然界の植物や生物、動物と共存する方法」にたどり着き、収量も徐々に増加したのだとか。さらには、インターネット販売にいち早く取り組んだことで、安心・安全なお米を探していた全国の人たちからの支持を集め、今日に至っています。
自分の生き方・考え方を売ることで応援団が増えてくる
最近、中道さんは多くの人に「なぜ有機栽培をしているのですか?」と聞かれるのだそう。そこで、正直に「自分が農薬で身体を壊したから」と答えると、そのエピソードをきっかけに中道農園のことを応援してくれる人が増えたのだとか。
「オーガニックではなく普通にお米を作っていたなら、もっと安い値段で売れるんです。なので、自分都合で有機栽培にしたことによる割高分を“お客さんに負担してもらっているんじゃないか?”と感じる後ろめたさがずっとありました。ですが、自分のわがままで始めた農業の応援団となってくれる人が予想以上にいたんです。自らの身を守るために始めた無農薬・有機栽培なのに、これほど多くの人の応援を受けて続けていられるとは、なんて幸せで贅沢なことなんだ!と思うんです。体調を崩したのは良くないことでしたが、農薬の影響に早く気づけたのはラッキーでしたね。
というのも、農家が作物と向き合わず必要以上に散布するから、農薬が悪者扱いされてしまっているんです。実際に農薬のおかげで助かっている人もいますし、減農薬栽培についても、農薬の特性をしっかり理解したうえで、必要なところに必要なだけ使うのがいいと考えています」
「有機(オーガニック)栽培」と「自然栽培」の違いはどこにある?
中道農園では主に、有機(オーガニック)栽培と自然栽培という2つの無農薬農法で育てたお米を扱っています。
有機栽培とは、農薬や化学肥料を使わず、水と太陽、田畑に住む生物、米ぬかなどから作られた有機肥料など、“自然の恵み”のみで作物を育てる農法のこと。ちなみに「無農薬」という表示は生産者の自己責任で付けることができますが、「有機」もしくは「オーガニック」という表示は、3年以上農薬不使用であり、それを記録管理し、国の指定を受けた認証機関の審査に合格しなければ付けることができません。自然の恵みのみで育てられた有機栽培米は、米本来の甘みや粘り、香りをしっかりと楽しめます。
一方の自然栽培とは、農薬はもちろん有機肥料も一切使わない農法。土と水、そして作物が本来持っている力を引き出しながら育てます。ただ、水を与えてそのまま放置しておくのではなく、草取りや、田んぼの表面を浅く耕し酸素を供給しバクテリアを増やすなど、必要な時にだけ手を差し伸べます。農家に見守られながら育った自然栽培米は、お米本来の味と香りが楽しめてクセもなく、ご飯だけでも十分おいしく食べることができます。
※中道農園の有機栽培ならびに自然栽培は、日本農林規格のJAS有機認証を受けています。さらに自然栽培は、NPO無施肥無農薬調査研究会の認定も受けています。
自然栽培農法では、土や稲そのものの力がフルに発揮される
自然栽培農法(無施肥無農薬栽培)では、土と水、そして稲の生命力だけで米を実らせます。肥料が一切与えられないとても厳しい環境で栽培される作物は、何を栄養にして成長するのでしょうか。
中道農園では、多くの実験を行っています。そのひとつとして3年間有機肥料のみで栽培した田んぼで、次の4年目以降からは一切肥料を与えない自然栽培農法に切り替え、収量にどのような変化が見られるのかを記録しました。有機肥料も与えなくなった4年目以降は予想通り年々収量が減少していったのですが、なんと7年目からは収量が戻り、品質の良いおいしいお米が収穫できるようになったのです。
中道さんは、土中の微生物が活性化して生態系が再構築され、肥料が無くてもお米がしっかり育つ“土本来の力を発揮できる田んぼ”になったからだと推測。また、稲を空腹状態にすることで、通常では吸収できない養分を取り入れられる稲本来のDNAが目覚め、枯れた雑草が吸収した養分も稲が吸収できるようになったからではないかと考えています。
田んぼに“稲以外の存在を認める”こと、つまり草や虫や動物と共存できる“生態系そのまま” の状態にすることで、土や稲そのものの力を発揮させることができたのです。
参考:中道農園「自然栽培農法の世界」
生産者と消費者がお互いに育てあい、成長し続けるのが理想
世界各国の食にまつわる展示会やオーガニックの現場に行って最新情報を吸収し、得た知識を積極的に発信し続けている中道さん。日本各地の勉強会で無農薬栽培について話す機会も多く、「中道農園さんのお米はインターネットで買えますか?」と聞かれる機会も増えました。そんなとき中道さんは、「まずは近所の農園に行き、直接買ってほしい」と答えるのだそう。
「農園へ直接買いに行くことで、農家も自分の作物に関心を持たれていることを知り、良い緊張感を得られる。何回も買いに来てくれるようになると、期待に応えてもっとおいしいものを育てたいと努力するようになる。つまり、消費者が生産者に関心を持つ、たったそれだけのことに農家を育てる効果があるんです。食べる側も『あの米農家さんが○○って言ってたよ』なんて食卓で話すのも楽しいでしょう」
「例えば、田んぼの表面を混ぜて酸素を入れてやると、3日後には葉っぱがシャキッと蘇り、稲の表情も変わってくるとか、良い野菜は色が鮮やか、だからと言って濃すぎず、くすみや濁りがないものを選ぶとおいしいなど、農家が知っている情報をどんどん発信することで、お客さんに食品を選ぶノウハウが育ち、舌が肥え、おいしいものしか買わなくなる。そうなると、売れている農園の栽培方法を学びたいと、農家同士の情報交換も活発になる。農家とお客さんが地域の農業をそれぞれ育て合うことができるんです」
ご飯をよりおいしくするのは豊かな“想像力”
「農家のわがままというか僕個人のお願いかもしれないけれど、ご飯を食べるときに、田んぼや稲穂が育っている風景を想像してもらえると、それが“ご飯のおいしさに影響する”と思っているんです。冬の田んぼはどうなっているんだろう? 夏の稲は暑くてくたびれていないだろうか? なんて、田舎の風景をちらっとでも思い浮かべてもらいたい。田んぼを実際に見たことが無い人にとっては、絵本の1ページかもしれないし、ひょっとすると麦畑のイメージかもしれない。それが間違っていても良いんです。春夏秋冬の田んぼや稲穂を想像しながらご飯を食べるとおいしくなるかも? なんて思っています」と話す中道さん。キラキラ輝く夏の水田や、秋風になびく黄金色の稲穂。四季折々の田んぼを想像しながら食べるご飯は、五感を刺激する最高のごちそうとなるでしょう。
今回のインタビューの最後、奥さまの裕子さんに、中道家のみなさんが普段食べている玄米の炊き方について教えてもらいました。
米農家のお母さん、中道裕子さんが実践する「玄米の炊き方」
一般的な圧力鍋を使った、浸水時間無しで玄米をおいしく炊く方法をご紹介します。
材料 (4~5人分)
・玄米 … 3カップ
・水 … 4と1/2カップ(玄米の1.2~1.5倍)
・自然塩 … 3つまみ
作り方
1 玄米をボウルに入れて水を加え、玄米の表面に傷がつくように玄米同士をこすりつけて、4~5回水を替えながら洗います(玄米に傷をつけることによって吸水性を良くします)。
2 洗った玄米を圧力鍋に入れて分量の水を加え、蓋をせず中火にかける。
3 水が温まりクリーム色になったら塩を加え、蓋をして強火にする。圧がかかったら弱火で25分炊く。
4 火を止め、コンロから下ろして15分ほど蒸らし、圧力が下がるのを待つ。
5 蓋を取り、全体をしゃもじでやさしく混ぜる。