CASE STUDY

「水産の町」愛南の魚を最高の状態で食卓へ届けたい!生産者・漁協の想いをつなく架け橋に。

FUTURE魚・貝類

愛媛県海南町は、黒潮の恩恵を受ける全国屈指の養殖漁場として名が知られている「水産の町」。愛南漁協では、真鯛や真珠の養殖、“愛南のクエ”に“愛南びやびやかつお”、そして産官学で開発した“媛(ひめ)スマ”、そのトップブランド“伊予の媛貴海(ひめたかみ)”など、目玉となる魚種を豊富に手掛けています。

愛南漁協に所属する生産者や漁協職員の想いは「魚を良い状態でお客様のもとへお届けする」ということ。それは私たちヤンマーマルシェにも通ずるものです。

今回は同漁協の立花さん、鎌田さん、そしてヤンマーマルシェの担当吉本さんに参加いただき、愛南漁協の成り立ちや、養殖や漁協の運営へのこだわり、そしてヤンマーマルシェの販路マッチングを利用いただいた感想、今後の展望などを伺いました。

左から
愛南漁協 販売促進課 鎌田達也さん
愛南漁協 組合長 立花弘樹さん
ヤンマーマルシェ株式会社 フードソリューション部 水産グループ 吉本 篤史さん

7つの漁協が合併して誕生した愛南漁協

―まずは、愛南漁協について教えてください
立花さん:
愛南漁協は、2005(平成17)年に愛媛県内にある7つの漁協(内海・御荘・南内海・西海・福浦・深浦・東海)が合併して誕生しました。その背景には、気候変動などの影響による天然資源の枯渇という深刻な問題があります。

水産業を持続可能な産業として盛り上げていくためには、従来の漁船漁業だけではなく「作る漁業=養殖」にも力を入れる必要があると考え、漁船漁業のほかに魚類養殖、真珠や牡蠣など貝類の養殖にも力を入れ、互いに共存共栄できる漁協を目指しています。

―合併したことで、どのような苦労がありましたか?
立花さん:
最初の頃はみんなの意見をまとめるのが大変でしたね。合併前の各漁協は、養殖だけを行うところや、市場を持っていないところもあり、環境やカラーの違う漁協が集まっていたものですから、意見がぶつかることもしょっちゅうでした。全員が同じ方向を向けるように、何度も何度もしつこいくらいに会議を重ね、合併してから約20年経った今では、団結力は強いものになったと自負していています。

―漁業従事者の収益向上への取り組みにはどのようなものがありますか?
立花さん:
漁船漁業は収益が良い年もあれば厳しい年もあり、なかなか安定しません。一方、魚類養殖もコロナ禍以降は魚の単価が下がり、苦しい局面が続きました。2022(令和4)年からは魚の相場も上がってきたのですが、今度は魚類養殖の餌になる魚粉や資材などの価格が高騰しています。

また当漁協が力を入れている真珠養殖でも、2019(令和元)年に新種のウイルスが発生し、アコヤガイの稚貝が大量死してしまったのも大きな痛手でした。近年ようやく後継者が現れそうなところまでこぎつけたところだったのですが、この一件で難しくなってしまったのです。魚であれば餌による投薬や抗生剤の使用が可能ですが、貝類はそれができません。残ったアコヤガイをかけ合わせてウイルスに強い貝を作り出すには、数年かかるでしょう。

しかし、すぐに収益に結びつかなくても私たちは前向きに捉えています。真珠の珠は単価が高いので、強い貝を作り出せれば、稚貝を作る人、真珠の核となる「珠」をアコヤガイの体内に入れる人、アコヤガイを育てる人など、真珠養殖に関わるすべての人の所得向上が期待できます。真珠養殖業を稼げる産業へ成長させることができれば、この仕事を志す人が戻ってくるのではないかと期待しています。

トップブランド“愛南びやびやかつお”をはじめ、多くのブランド魚種を開発

―愛南漁協を代表する“愛南びやびやかつお”について教えてください
立花さん:
“愛南びやびやかつお”は当漁協のトップブランド魚です。「びやびや」というのは、包丁が入らないほど新鮮で弾力がある様子を表した地元の方言です。

全国にブランド魚は数多くありますが、ブランドとして成長するためには何よりも中身、つまりはおいしさが伴っていなければいけません。だからこそ、究極のおいしさを追求するために厳しい管理基準を設けています。カツオは傷みが早いため、釣り上げたらすぐに船上で活け締めをして血抜きを行い、鮮度を保つための特別な氷で保管、そして操業を終えたらすぐに帰港して出荷という、このスピード感も重要です。

“愛南びやびやかつお”のおいしさを伝えるべく、愛南漁協でも一生懸命プロモーションをやっています。しかし真のブランドを確立するには、消費者の方に「びやびやかつおはいつ食べても間違いないね!」と、口コミで広がっていっていくことが重要だと思っています。

この品質を守るためにも、愛南漁協では2級品・3級品のかつおは “愛南びやびやかつお”として出荷しません。そして2、3級品のカツオを含めて全体の質を上げていこうという想いでブランディングに力を入れています。

ヤンマーマルシェ吉本:
カツオの他にも、愛南漁協さんといえば“媛スマ“が有名です。愛南町のふるさと納税返礼品にも選ばれているトップブランド“伊予の媛貴海(ひめたかみ)”は、背が中トロ、腹は大トロという、全身どこを切り取ってもトロの味わいなんですよ!

立花さん:
もともとスマは市場にあまり出回らない魚でしたが、愛媛県と愛媛大学の研究開発によって完全養殖が成功しました。今では重量2.5kg以上、脂質25%以上を基準としたスマ“伊予の媛貴海”をトップブランドとして、それ以外の愛媛県産の養殖スマを“媛スマ”として打ち出しています。

ヤンマーマルシェ吉本:
スマという魚に目を付け、産官学がしっかり連携してブランド開発をして、それが上手く回っているというのは、どこの漁協にも負けない大きな強みですね。2.5kg以下の小ぶりなスマは“媛スマ”として出荷されていますが、そちらも誰が食べても美味しいと感じる品質なのがすごいところです。

立花さん:
ありがとうございます。餌などで改良を重ねた末に、今は安定したおいしさを安定してお届けできるようになりました。

鎌田さん:
他にも愛南漁協が誇る真鯛は、鯛の養殖業を50年にわたって手がける安高水産さんがメインで活躍してくれています。愛南のトップランナーが本当に美味しい、素晴らしい鯛を作っているからこそ、他の生産者さんも追いつけ追い越せで切磋琢磨できていると感じます。こうして生産者の方々が本当に良い魚を作っているからこそ、漁協は魚の管理を徹底し、良い状態でお客さんの元へ届ける役目を全うしたい。それが職員一同の想いです。

「水産の町」を守るべく、魚を一匹でも多く売るための環境を整える

―皆さんの高いプロ意識は、どこから来るとお考えですか?
立花さん:
我々の暮らす愛南町は、全国屈指の良好な漁場を持つ水産の町です。逆に言えば「愛南から水産を取ったら何が残るの?」という想いもあるんです。よって生産者さんは全国の皆さんに納得いただける美味しい魚を作り、愛南漁協はその素晴らしい魚を全国に届けるべく、職員一丸となって出荷や販売力の強化に取り組んでいます。

ヤンマーマルシェ吉本:
愛南漁協さんは、生産者の方と漁協の関係が良好ですよね。また、いつ来ても漁協がとてもきれいなのも印象的です。魚のにおいが一切しないので、今朝はセリが無かったんじゃないかと思うぐらいです。そのレベルを毎日保っておられるのがすごいです。

立花さん:
ありがとうございます。朝市・夕市のセリが終わるたびに漁協のメンバー全員でゴミを取って、血も洗い流しています。生産者が手塩にかけて育て、獲ってきてくれた大切な魚を扱う場所だけに、心を込めて清掃しています。これだけ環境整備に力を入れられるようになったのは、漁協が合併して職員が増えたからなんです。

また職員が増えて人的リソースに余裕ができたことで、当漁協のパイオニアとしていち早く販路を開拓した安高水産さんをはじめとする生産者さんから売り方のノウハウを教わる余裕もできました。また、ヤンマーマルシェさんとの取り組みも含めて、愛南の美味しい魚を一匹でも多く売るような取り組みに注力できるようになりました。

ヤンマーマルシェ吉本:
僕ら仕入れる側からすると、愛南漁協さんとのお付き合いは良い意味で楽をさせてもらっています。少しでも自信がない時は、「愛南の魚の品質を守るために出荷できない」と言ってくださる。数を確保するには、品質を落としても出してしまいたくなるところですが、愛南漁協さんはそこが決してブレないのです。

魚の品質が落ちがちな夏の時期でも、愛南漁協さんからは他の産地よりもレベルの高い魚を提供していただけるのも驚きです。特別に手間暇をかけたブランド魚ではない通常レベルの魚が、他の産地で言うところのプレミアムレベル。そんな素晴らしい仕事を平然とされているところが、とんでもなく凄いと思っています。

愛南漁協のもうひとつの資源である「人」を大切に

―水産業を持続可能な産業とするため、漁協として他に取り組まれていることはありますか?
立花さん:
結局のところ、強い漁協になるためには「人」がすべてだと思うのです。現在、愛南漁協には54人の職員が在籍しており、うち16名が女性です(2022年10月当時)。スカート姿で出勤する女性も、仕事の時はジャージを履き、漁船から上がったばかりの大きなカツオをバンバン引っ張ってくれています。良い意味でみんな仲が良く、泣くのも笑うのも一緒。この2~3年でメンバーも10名ほど増えました。そんな大切な仲間たちに長く働いてほしいから、弁護士や社労士の先生にも相談しながら働きやすい環境を整えている最中です。

我々漁協を運営する側が自分本位の考えで進めるのではなく、今の時代に合ったやり方を模索し、生産者、漁協職員、そして協力してくれているヤンマーマルシェさんをはじめとする産官学が一丸となって同じ方向を向いて進んでいきたいと思っています。

ヤンマーマルシェ吉本:
仕事柄、他の漁協さんから「お手本になるようなところはないか」と聞かれることもよくあるのですが、そんな時は必ず「愛南漁協に行ってください、見ればわかりますよ!」と紹介しています。私としては、愛南漁協は日本トップレベルで成功している漁協だと思っているんですよ。

美味しい魚を食卓へ届けたい。ヤンマーマルシェがその想いをつなぐ架け橋に

―最後に、ヤンマーマルシェの販路マッチングサービスに期待することをお聞かせください。
立花さん:
これまでにいろんな取引先と関わってきましたが、吉本さんからは「良い魚を作ってく れたら、僕たちはしっかり売ります!だから良い魚を作って欲しい!」という気持ちをひ しひしと感じます。今後ヤンマーマルシェさんとの取り組みを続ける中でさらに販路が広がっていくことがあれば、需要と供給のバランスへしっかりと応えられるよう、我々も頑張っていきたいですね。

鎌田さん:
吉本さんからは、地方在住ではなかなか掴めない、市場ニーズや他の漁協の情報を提供してもらえるのがありがたいです。これからもいただいたアドバイスを参考に質の良い魚を出荷できるよう努力していきますし、産地としてもヤンマーマルシェさんを信用しているので、これからも長いお付き合いができればと思っています。

ヤンマーマルシェ吉本:
「良いものを売りたい」という私たちの強い想いは、取引先のバイヤーさんにも届いていますよ。例えば今、スーパーでは高級魚クエの販売が厳しい状態にあります。でも本当に美味しい愛南のクエをお客様まで届けたい。そういった情熱を持つバイヤーさんが愛南漁協さんを訪れ、スーパーの上司にかけあって愛南のクエを取り扱うよう奮闘されていると聞きました。

それは生産者さんと愛南漁協さんの想いが届いていることの表れだと思うのです。魚を獲る人、集める人、送る人、売る人が順にバトンをつなぎ、美味しいものを消費者の元へ届ける。私たちヤンマーマルシェがその架け橋になれれば、こんなに幸せなことはないですね。

生産者が語る愛南町の真鯛の魅力

ここからは、愛南町で半世紀にわたって真鯛の養殖業を手掛けている安高水産有限会社の安高さんに、真鯛の魅力をお話いただきました。

―安高水産さんが真鯛の養殖で力を入れているのはどんなことですか?
安高さん:
我々がやっているのは、純粋に美味しい真鯛を作るということ。当たり前のことをきちっとやり、魚にとって良いことを積み重ねていく。そして鮮度の良い状態で出荷できるようにする、それがすべてです。

―具体的な取り組みを教えていただけますか?
安高さん:
効率よく育てるために、できるだけ大きい生け簀を使っています。そして、天候や魚の個体差などを見極めながら餌をしっかり与えて、大きく育てていますね。ある程度指針を持ちながらも、毎日データを取ってそれを見直しながら日々改善していく。自分たちとしては、まだまだ養殖のノウハウは発展途上にあると思っています。

―どのようなデータを蓄積しているのですか?
安高さん:
給餌船ごとに積んでいるタブレットに、いつどのような餌を与えたか、どんな作業をしたのか、魚が死んだ場合はどんな病気になっていたのかなど、魚の成長や、成長効率に影響を与える可能性の高いデータをできるだけたくさん取るようにしています。

―安高水産さんにとって、漁協はどのような存在ですか?
安高さん:
我々生産者の活動そのものを取りまとめるのが漁協だと思っています。魚類養殖は地域の自然を使わせてもらってはじめて成り立つ産業です。そのため、自然と生産活動のバランスを漁協に取ってもらっていますね。

そして、養殖業は愛南の基幹産業だと思っています。養殖業のノウハウは自然ありきの物ですから、よその土地には持って行けません。漁協には、養殖業・水産業の魅力や将来性を外部へどんどん発信していただき、新しい働き手が愛南町に来て、これからの養殖業を盛り上げてくれたら良いなと考えています。

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水産物が私たちの食卓に届くまでは多くの人が関わっており、それぞれが「美味しい魚を食べてもらいたい!」という想いを持って活動しています。ヤンマーマルシェはその橋渡しをする存在になるべく、これからも懸命に取り組んでいきます。