京都府北部、丹後半島の入口に位置する与謝野町 。大江山連峰と天橋立を有する阿蘇海に抱かれ、町を流れる野田川流域の肥よくな平野では古くより稲作が盛んです。山からのきれいな水が流れ込む野田川は天然の鮭が遡上することでも知られており、この清流を守るべく、町を挙げて自然循環農業 を推進しています。 その与謝野町で農業を営む誠武農園さんは、3年前からヤンマーの「生産支援サービス」を利用されています。取り組みを始めたきっかけや、今後目指す方向性などについて伺いました。
左より
有限会社 誠武農園 取締役 水稲責任者 大江 卓さん
ヤンマーマルシェ株式会社 フードソリューション部 農産グループ 井口 有紗さん
自然循環農業を推進する町で自分たちができること
―はじめに、誠武農園さんの運営方針や、栽培におけるこだわりを教えてください。
大江さん:
誠武農園では、与謝野町のブランド米「京の豆っこ米」をはじめ、キュウリ、トマト、水菜、小松菜、ネギ、小かぶ、露地栽培で鷹の爪とうがらし、黒大豆、大根、にんじん、白菜、キャベツなどの野菜を育てています。
僕たちの暮らす与謝野町は自然循環農業を推進していて、行政が有機質肥料の生産も手掛けています。この与謝野町オリジナルの有機質肥料は「京の豆っこ肥料」と呼ばれていて、その原料は“おから” なんです。与謝野町で作った白大豆を豆腐に加工し、そこで出た“おから”を町の肥料工場で肥料にし、土に戻す。安心でおいしいお米や野菜を作るための、僕たちのこだわりでもあります。
ヤンマーマルシェ井口:
すばらしい取り組みだと思います。誠武農園さんでは、「エコファーマー」の認証取得など環境保全にも積極的に取り組まれていますが、何かきっかけがあったのですか?
大江さん:
僕たちが自信を持っている「京の豆っこ肥料」を有効に使うためにも、エコファーマーの認証を取りたいと考えました。そして、与謝野町の自然を守りたいという想いがあります。
この地域で暮らす人たちは、山から流れる水に対する気持ちが特に強いように感じます。というのも、与謝野町を流れる野田川下流には、日本三景のひとつである天橋立があり、僕たちが水田で代掻き(※2)をすると濁った水が下流へと流れ、景観を損ねてしまうことになりかねません。ですから、限りなく水を浅く代掻きをして、なるべく濁った泥水が川に流れないような対策にも力を入れていますね。農業従事者でない人も一緒になって、地域で水路の掃除も行っています。
※2:代掻き(しろかき) …水田に水を張り、土をかき混ぜて表面を平らにする作業
地域の美しい自然を守り、安心安全で美味しい農作物を提供する。これが、僕たちが一番大切に想っていることですね。
さらなる事業拡大を目指し取り入れた新しいチャレンジ
―それでは、「生産支援サービス 」を利用しようと思ったきっかけを教えてください
大江さん:
丹後地方では主にコシヒカリを栽培しているのですが、どうしても単一品種だけを作っていると稲刈りの旬を逃してしまうことがあります。誠武農園が耕作 面積を増やしていく中で、これは大きな課題でした。そんな折、作期をずらすことで効率良く作業を進められるよう、別品種の米栽培してみないかとヤンマーさんからお話を頂きました。
僕たち もちょうど別の品種の栽培を模索していたタイミングだったので、提案頂いた「あきだわら 」にチャレンジしてみることに。最初の頃にはヤンマーさんに何度か勉強会を実施してもらい、肥料についてもアドバイスいただいたので、それをもとに栽培を進めました。
おかげさまで、初年度から予想以上の収穫量を実現できています。また、ヤンマーさんは収穫してから出荷までのスピードがとても速いことに驚きました。とても早く段取りしていただけるので、非常に助かっています。
ヤンマーマルシェ井口
それはよかったです! 大江さんが他に感じていらっしゃる課題はありますか?
大江さん
地球温暖化の影響で夏の気温が上がり、従来この地方に適していたコシヒカリが育てづらくなったと感じています。そこで今後は、ヤンマーさんとの取り組みで栽培を始めた「あきだわら」のような多収米品種へのシフトも検討しているところです。
―最近、ニラの契約栽培もスタートされたと伺いました。こちらのきっかけは?
大江さん:
稲作をメインで行っていると、冬の仕事がなかなか確保できないことが悩みのタネでした。これまでもネギ、水菜、小松菜などは育てていましたが、この度ヤンマーさんから、稲刈りが終わった頃から収穫を始められるニラ栽培をやってみては?と提案を受けました。
まだ種まきして間もないので手探り状況ではありますが、播種前契約(※1)により経営の安定化が図れるのは大きなメリットです。それと同時に、僕たちも責任を持って良い作物を育てなければいけないなと思っています。
※1:播種前契約 …種蒔きの前にヤンマーマルシェが価格条件を提示、数量・面積別契約に基づき規格内商品は全量買取。価格変動の影響を受けず、生産者の安定収入を目指します。
ヤンマーマルシェ井口:
ニラ栽培においては、JGAP取得についても取り組まれていますよね。その経緯も聞かせていただけますか?
大江さん:
誠武農園には乾燥野菜工場があります。農商工連携でつながった大手の乾物屋さんに8~9割がた卸しているのですが、今では弊社独自の新しい品目を増やそうとしています。そこで工場の生産管理に役立てばと、まずHACCPの認証取得を目指し、申請する段階まで進みました。それに負けないように農園全体で生産工程管理の向上につながればと、JGAP取得への取り組みをスタートしました。
ヤンマーマルシェ井口:
では、そのタイミングで私どもへご相談くださったのですね。
大江さん:
そうなのです。ニラを育て始めるタイミングで、ヤンマーさんと「ニラもゆくゆくはJGAPの認証を取得したいね」という話になり、お互い助け合いながら実現できればと、相談させてもらいました。誠武農園単体でJGAP認証を取得するのはハードルが高く、ヤンマーさんのような同業者じゃない立場での目線や、外部からのアドバイスが重要だと感じていました。ゆくゆくはネギなどの野菜を中心にJGAP認証を取りたいですね。
ヤンマーマルシェ井口:
大江さんは、JGAP取得によるメリットとして何があると考えていらっしゃいますか?
大江さん:
先日JGAP認証を取得された方の意見を聞いたのですが、皆さんが口を揃えるのは「ロスが減る」ということでした。経営にとってロスは一番深刻なこと。農園の規模が大きくなると、肥料や農薬の管理が行き届かず、誤発注のリスクなども増えてしまいます。それがJGAP認証によって解消できるのは大きなメリットです。JGAP認証を取得すれば、自分たちの経営にも一本筋が通る。何か明確な基準があったほうが、若い世代にも伝えやすいと思っています。
今までの農業は、個人の感覚が重視された部分も大きかったと感じます。僕たちも先輩達のやり方を見よう見まねで学んできましたから。そこで、JGAP取得による生産管理やヤンマーさんが手がけられているスマート農業 のような仕組みを実現できれば、自分たちのやるべきことが明確になる、そこがいいなと考えています。これから農業を始めようとする方は、毎日の取り組みを記録してデータ化し、自分の財産として蓄積していくことが重要になるのではと感じています。
若い就農希望者を育て、京丹後の農業を支える6次産業も盛り上げたい
―これからの農業についての想いをお聞かせください
大江さん:
誠武農園では、パートさんや繁忙期だけのお手伝いの方も含めると約20名が在籍しています。IターンやUターンで若い人にも働いてもらえたらいいなという想いがあり、農園のWebサイトもしっかり準備しました。その甲斐もあってか20代からの応募も増えはじめ、今も頑張ってくれています。
あとは乾燥工場の拡充にも力を入れたいです。新しい品目を増やしたくて、今は乾燥にんじん、ゴボウ、ネギ、玉ねぎ、キャベツなども扱うようになりました。誠武農園で作った野菜だけではなく、近隣の京丹後の農家さんが作った野菜も加工しています。たとえば割れたにんじんなど通常売り物にできない野菜も、スライスして乾燥にすると立派な商品になります。この取り組みには、近隣農家さんからも感謝の声を頂いています。
ヤンマーマルシェ井口:
我々への要望があれば、ぜひ教えていただきたいです。
大江さん:
僕の知る限りではヤンマーさんだけなんですよ、機械を売るだけじゃなくて「こんな野菜作ってみませんか?」といった提案をくださるのは。お付き合いを続ける中で、こちらからも「与謝野町の風土にはこんな特長があるんやけれど、何かよい品種はある?」といった問いかけにも繋がる。そんな関係性をこれからも築いていきたいですね。
―誠武農園そして大江さんの今後の目標を教えてください
大江さん:
まずはJGAP認証を取得したいですね。先ほどもお話したように、地球温暖化でコシヒカリ作りが難しくなってきた上に、米価は下がってきています。新たに始めたニラ栽培も成功させたいですし、加工用の乾燥野菜にも力を入れたいです。これからも、この与謝野町で地に足のついた経営を続けていけるよう頑張ります。
循環農業推進の町、与謝野町で新たな農業のありかたを模索する誠武農園さん。その取り組みは、ヤンマーとともに今後も続いていきます。